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ラ・マンチャ通信
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  論考/提言/元外資系SEとしての視点
中島丈夫のITへの見果てぬ夢
ITの技術動向、業界動向などについて鳥瞰します。過去・現在・未来をさまよう見果てぬ夢を追います。
多分に主観的ですが、その分本音で書きたいと思っています。40年間SEというIT道(?)を歩んできた小生の引き出しには多彩な素材が眠っていますが、問題は適切に思い出せるかどうかです。かなりのスピードで呆けが進行していますので。。。
テーマや記述が行ったり来たり、くどくなるのをお許しください。
小生が特にお伝えしたいのが、お客様とともにシステム造りをするSEの観点から見たIT技術の論考、そして外資系の技術者として海外研究者/技術者との交流をベースにした多様な視点です。偉そうな態度に見えるかもしれませんが、あるいは取るに足らない論議だと思うかもしれませんが、日本のIT論議に一番欠けていた視点だと昔から危惧していました。



奇怪な物体は、世界初のメーンフレーム用CMOSマイクロプロセッサー

- IBM100周年のブロガーミーティングで大失敗.懺悔とフォローのためのコラム -1

2011年08月07日記述. 08月16日追加・修正



懺悔とお詫び

 「IBM100周年で考えるテクノロジーの未来ブロガーミーティング」、にIBM OBとして参加してきました。
どうも、日頃の飲み会の回数が足らなかったのか、(全くのシラフだったにもかかわらず)、
冒頭、Max 10分のプリゼンの約束が、30分(40分?)以上喋ってしまい、気が付けば完全に後の祭り。
本当はブロガーさんとのワイワイの筈が、当初皆さんがダマリこくってしまい、当方も、ガックリ。
人生今までも、話し始めると夢中になって、人の話しを聞かないで自分ばかりが出しゃばる傾向が多々ありましたが、遂にここまできてしまったのか、と、大反省とともに、大きく落ち込んでしまいました。
フ~ム、愈々、映画”ラマンチャの男”の最後のシーンになってしまうのか、と滅入っています。
 
 IBM 100年を題材に、企業システムには疎遠なブロガーさんに、メーンフレームIBM zを何とか知ってもらおうという大胆というか、無謀な企画(?)に古巣から呼び出され、力が入り過ぎたのですね。
しかも本来は過去100年を語る、というニュアンスが強かったのが、ブロガーさんの事前の要望もあって、”テクノロジーの未来”に重点が移り、小生の話は、過去と未来がゴッチャゴッチャになって、時間だけがすっ飛んでしまいました。
主催者の皆さんや、参加していただいたブロガーの皆様には、謝るすべもありません。
本当に申し訳ございませんでした。

 ブロガー・ミーティングでは、このブログの一番下に添付した、山のようなIBM用語群の、超ビジーなフォイルで説明させていただきました。(実際はもう一枚、IBM Watsonの説明フォイルも使っての3枚です)
過去と未来の技術の流れを、メーンフレームの切口で展開すると、こうなってしまいました。
これは自分で云うのも何ですが、酷いプリゼン資料ですよね。
時の流れにテクノロジーを書き込んでいくと、こうなってしまいました。
ブロガーの皆さんは、コレはなんじゃ、と、眼を白黒されたに違いありません。
これからしばらくのラマンチャ通信のブログで、勝手ではありますが、順々に説明させていただきます。

奇怪な物体は、世界初のメーンフレーム用CMOSマイクロプロセッサー

 さて、”日曜アーティストの工房”のTOMAKIさんがご自身のブログで、、
冒頭の写真、この物体が何なのかいまいち分かってないのですが、とりあえずなんかカッコイイので写真に撮ってみました。”と書き込まれています。
(『IBM100周年で考えるテクノロジーの未来』のプレゼン資料がすごかった )
http://tomaki.exblog.jp/16687509/

今回は、この物体のフォローをさせていただきます
 その奇怪な物体は、ミーティングでも述べさせていただきましたように、世界最初のメーンフレーム・CMOSマイクロプロセッサーです。小生がブロガー・ミーティングに持ち込みました。
小生も写真を撮ってみました。図1
 1994年当時、お客様の説明会などであっちこっちと持ち歩いていたために、ご覧のようにチップは傷ついてボロボロになっています。お宝というよりは、チャップリンがボロ靴で登場したような雰囲気ですね。
図2が、当時日本IBMが正式に使っていた写真です。
大きさを表現するために、皆でワイワイ騒いだ末に、当時の事業部長の秘書の方の手を借りています。
この美しい手に包まれて、IBM CMOSマイクロプロセッサーは日本に初デビューしました。

 ブロガーの方のコメントにもありましたが、何故これがそんなに凄いのか、比較対象が必要です
ということで、図3に、当時の超大型メーンフレームのプロセッサーで使われていた、TCM(Thermal Conduction Module)という高密度LSIの熱伝導モジュールの写真を載せました。
これは水冷のパッケージが一体で数kg程度の重さがあって、とても持ち歩くわけにはいきません。
TCM一個に100個の、BiPolar ECL回路のLSIチップが載っていて、さらに6個のTCMから一つのプロセッサーが構成されていました。
これを持ち込んでいたら、ブロガーの方は、こちらの物体により驚嘆されたに違いありません。
とにかく頑丈で、美しくって、貴重そうで、無茶苦茶重い。(図2と図3は大体同じ縮約です)
それに比べれば、くだんのCMOSマイクロプロセッサーの方は、なんと貧弱で、安っぽいことか。
これがダウンサイジングの、テクノロジーのDisruptionの姿です。

 当時はダウンサイジングの真っ只中で、IBMは、従来の恐竜型メーンフレームから、いち早く、テクノロジーの要素を大きく切り替えました。メーンフレーム自身がそのテクノロジーをダウンサイジングしたのです。
正確なものではありませんが、性能比較の概略を図4に載せます。
これは、当時、情報処理学会の解説で使ったものです。
(特別論説「情報処理最前線:大型汎用計算機は生き残れるか? ライトサイジングへの道」(Vol.34, No.10))

 図4からも明らかなように、当時の大型メーンフレームとCMOSマイクロプロセッサーの性能差は大きく、大きなシステム構成ではそのまま移行することは不可能でした。
一つのボックスは6個のCMOSマイクロプロセッサーのSMP(Symetric Multi-Processor)として構成されましたが、それでもより大きなスケールアップを必要とされるお客様の要件を満たすことが出来ません。
そこで、CMOSマイクロプロセッサーと共にIBMが市場投入したのがSysplexです。
当時、並列メーンフレームという呼び名でデビューしましたが、現在で云えばクラスター型のスケールアウトです。なんと、スケールアウトの起源の一つがメーンフレームなのです
現在のスケールアウトの技術と大きく違うのがデータベースの方式設計でした。
(かなり後で登場したOracle RACとも全く違います)
説明が詳細になりますので機会を改めますが、クラスター間でデータの読み書きが割り込み無しで直接行われる構造で、これが後にRDMA(Remote Data Memory Access)としてオープン標準になり、pureScaleとしてIBM p などのメーンフレーム以外での実装が始まっています。
これらの並列処理におけるデータ一貫性制御の技術は、2012年に稼働するスパコン、IBM Blue Waters にも、PGAS (Partitioned Global Address Space) という画期的なアーキテキチャに実装され、従来のMPIの実装に頼るスパコン””に比べて、アプリケーション開発の容易さやデータ処理系の並列処理性能において、世代の違うテクノロジーを実現することになりそうです。
ブロガーミーティングの主テーマであった、”スピード(オンリー)からスマートへ”の一つの挑戦です。

 さて、ムーアの法則に準じて半導体の微細加工技術が進み、1994年ごろには1~2世代前のメーンフレームのプロセッサー性能構築に必要なトランジスター数が、1チップに収まるまでになってきていました。

 1チップに収まると、プロセッサーを構成する回路間の信号伝達距離が桁違いに短くなり、それまでの距離をこなすのに必要だった信号伝達が強力ではあるが発熱も多い、BiPolar ECL回路などを止め、微小電力でも動作するCMOSに大転換することが出来ました。
その結果、図5に示すように、消費電力、発熱をドラスティックに減少させることができたのです。
マイクロプロセッサーの時代への、テクノロジーのDisruptionです。
IBMでは、特に、このメーンフレーム・マイクロプロセッサーをCMOSマイクロプロセッサーと呼んでいました。
IBMはこれとは別に、初期のApple MACのパソコンや、Playstation3, Xbox, Wiiなどのゲーム機で有名なPowerPCというマイクロプロセッサーも作りだしています。
今現在も、IBMはz系とPOWER系の、2系統のマイクロプロセッサーを開発しています。
ただしそのマイクロプロセッサーに適用されている最先端テクノロジーは共有・共用しています。
現在のIBMの最新マイクロプセッサーは、z196POWER7の2つがあります。
z196は4コア、5.2GHz、POWER7は8コア、~ 4.14 GHz ,4マルチスレッド/コアで、両者ともOut of Orderです。

 マイクロプロセッサーの登場によって、一旦は、コンピュータの消費電力や発熱が大幅に減少したのですが、これがさらなるムーアの法則をなぞったGHzの性能拡張で、再び物理限界に達してしまいました。
図6は、2004年のComputex 2004で、インテル最初の90nmテクノロジーである Intel Prescott を使ったデモ機のヒートシンク(放熱器)の写真です。
まるで、小象のようだ!とあきれ返ったレポートがあります。
Intel Prescott CPU heatsinks the size of small elephants
http://www.theinquirer.net/inquirer/news/1028770/intel-prescott-cpu-heatsinks-size-elephants
これを転機に、インテルはGHz競争を諦め、マルチコアに大きく舵を右に切ることになりました。
90nmの微細加工から、従来からあった漏れ電流が、60%以上にも達し、とてもパソコンに実装することが出来なくなったのです。

 さらなるムーアの法則の延長線上にあるテクノロジーは、SoC(System on Chip)であり3次元実装です。
IBMはテクノロジーにおける世界の頭脳(日経エレクトロニックス 2008.8.25)として、インテルと競います。
特にIBM Technology JDA (Joint Development Alliance) Ecosystem は、今後、より注目されると思われます。
これからは、スマートフォーンやタブレットで、インテルARMが激突すると思われますが、ARMもJDAの一員として、IBMの強力なテクノロジー・リーダーシップを共有することになるのでしょう。

 さて、私たちの未来に立ちふさがる壁、ブレークスルーしなければならない技術の壁はなんでしょうか。
ミーティングでも述べましたように、マクロな世界と偶有性の亀裂テクノロジーに立ちふさがる熱の壁
そしてコンピュータと人間の思考様式やインターフェース・ギャップを埋めるアーキテクチャの創発、だと、
小生は考えています。
人間の脳の情報処理能力は、1016 Computations/s、<1 aJ per operation、だといわれています。
(単位は、ミリ、マイクロ、ナノ、ピコ、フェムト、アト、ツェプトで、aJは10--18jouleです)
現在のスパコンのテクノロジー・レベルは、1 PetaFlops / 1MW(106)です。
2015年頃をターゲットとしている1ExaFlops(京やBlue Waters が10PetaFlopsなので約100倍)のスパコンを稼働させるためには、1GW の電力と発生する熱量となり、これは原発一基分に相当します
現在のテクノロジーの予測では、コンピュータの基本演算の発熱量も、2023年頃には1 aJ per operation に達すると考えられていますが、どのようなテクノロジーが使われているのでしょうか。
蛇足ですが、OBの気安さから意見を述べさせていただきますと、とても量子コンピュータは実現していないと考えます。

今後、ブロガーミーティングのフォローとして、技術的なテーマを順次、解説していきたいと考えています。



ブロガーの皆様へのリンク (as of 8/16/2011)

 このブロガーミーティングについては、既にブロガーの方々が書き込みを始めておられます。
思うに、ブロガーの方達って、大人だな~、と。 齢だけを重ねた小生は恥じ入るばかりです。

『IBM100周年で考えるテクノロジーの未来』のプレゼン資料がすごかった
http://tomaki.exblog.jp/16687509/

100年たってもとがった会社『IBMブロガーミーティング』
http://blogs.itmedia.co.jp/kudou/2011/08/100ibm-a781.html

AMN IBM100周年で考えるテクノロジーの未来ブロガーミーティングでまっとうなシステムの香りをかいできました
http://akibaryu.seesaa.net/article/218208816.html

IBM System z おちこんだりもしたけれど、私はげんきです
http://saya.s145.xrea.com/archives/2011/08/ibm_system_z.html

IBMブロガーミーティングに参加しました
http://tetsukun0105.wordpress.com/2011/08/05/ibm/

「IBM100周年で考えるテクノロジーの未来ブロガーミーティング」に参加しました
http://d.hatena.ne.jp/koyhoge/20110803/ibm

IBM 100周年で考えるテクノロジーの未来 ブロガーミーテイングに行ってきました
http://highfrontier.ldblog.jp/archives/52199790.html

メインフレームコンピュータの需要が増えている
http://blog.pasonatech.co.jp/mitani/104/17108.html

IBMは今年で創立100周年!!
http://blog.junkword.net/2011/08/ibm100.php

8/3(水)開催:IBM100周年で考えるテクノロジーの未来 ブロガーミーティング に行ってきたよ
http://lhuga.blogspot.com/2011/08/83ibm100.html?utm_source=feedburner&utm_medium=
feed&utm_campaign=Feed%3A+WhatAFunnyWorldILive+%28What+a+funny+world+I+live%29


コンピューターの未来
http://www.accent.jp/agawa/20110808/diary_3742.html

IBM100周年で考えるテクノロジーの未来 ブロガーミーティング
http://kage1208.seesaa.net/article/219342170.html

主催のアジャイルメディア・ネットワークさんの開催レポートは以下です。
IBM100周年で考えるテクノロジーの未来ブロガーミーティングにご参加いただき、ありがとうございました。
http://agilemedia.jp/blog/2011/08/ibm100.html


 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

    
  図1.ブロガーミーティングに持ち込んだ物体
   
   図2.日本IBMが公式に発表した時に使った物体
   図3.大型メーンフレームで使われたTCM
 
図4.大型メーンフレームとマイクロプロセッサーの比較
 
      図5.cm2当たりの発熱量の推移
     
  図6.Intel Prescott発表時の小象のような放熱器