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R-0012 クラウド・アーキテクチャ:HW資源の仮想化とvmイメージ
      2009年8月24日 中島丈夫 投稿
 
 
            

 クラウド・コンピューティングのプラットフォーム・ベンダーのうち、Amazon EC2、Microsoft Azure、VMware vCloud、そしてIBM Cloudなどがそのアーキテクチャのベースを仮想化技術に置いています。
サーバー、ストーレッジ、ネットワークなどのHW資源を有効活用してクラウド・スケールの性能を達成するためには他にグーグルのアプローチ(典型的なスケールアウト・クラウド)がありますが、既存企業システムとの親和性を重視する場合にはこの仮想化の方法がもっとも自然です。企業におけるサーバー仮想化が浸透するに従いより蓋然性を帯びてくるものと考えられます。
”R-0011 マルチ・テナンシー構築の方法と考慮点” で述べましたように、クラウド資源の有効利用とテナント間の隔離の強さのトレードオフで隔離性が一番強く、その意味でも企業系クラウドでは本命と考えられます。

仮想化ベースのクラウド・コンピューティングに共通の特徴

 これらの仮想化ベースのクラウドの構成は概略 図1のようになりますが、その特徴は以下のようになります。
- クラウド・ユーザーが導入・配置できるvm(仮想マシン)イメージとその受け皿としての仮想化ベースのプラットフォーム(基盤)
- vmイメージの基盤へのプロビジョニングと配置のメカニズム
- 基盤を構成する膨大な仮想化されたHW(サーバー、ストレッジ、ネットワーク)実資源の動的制御
- 簡単に構成・導入可能なセルフ・マネージメント型のイメージ選択・管理ツール
仮想化ベースのプラットフォーム(基盤)の構造は既によく知られていますが、クラウドで新しくフォーカスされるのがvmイメージです。

仮想マシン・イメージ (Virtual Machine Image)

 vmイメージはメーンフレームの仮想化アーキテクチャ(IBM CP67/CMS)で最初から採用され新しいものではありませんが、VMwareがvmotionでvmイメージのサーバー間でのモビリティを発明(?)してから大変重要な機能となりました。プラットフォームとサービスが疎結合となるクラウド・コンピューティングでは必須の機能となります。現在のオープン系仮想化技術の大半はメーンフレームのお下がりと言えますが、これは逆にメーンフレーム系が追従することになります。100%の信頼性を追求するメーンフレーマーにとって、実行中のアプリケーションを他のサーバーに投げる”気軽な”考え方は到底思いつかなかったものと思われます。
vmイメージのモビリティはクラウド・プラットフォーム(基盤)のプロビジョニングで必須のものとなりますが、より広いソフトウェア系の作成・配布・導入のライフサイクルでも大変重要な機能となります。
 vmイメージの基本的な属性は
- virtual machineLPARとしてブート・構成可能なバイナリー・データ
- 3層サーバー構成などの構成情報やvmイメージのインスタンス化、スタートアップのためのメタデータを同梱
eCloud研究会では日本IBMのJEANSの研究を継承し、vmイメージを応用の視点から次のように分類します。

- Virtual Servers

これはもっとも一般的に使われているvmイメージの応用パターンであり、その特徴は
- 物理サーバーの仮想化が目的。. OSミドルウェア、アプリケーションがvmイメージのユーザーから隠蔽されていない
- virtual server (仮想サーバー)のシステム管理は、Hypervisorとは別に必要

- Virtual Appliances (VA)

これは最初にVMwareから提唱されたモデルであり、当初 vmイメージのネットワークなどを介した配布が主目的でした。その特徴は
- SW型アプライアンスの一形態
- OS、 ミドルウェア、アプリケーションをカプセル化 (スタックの隠蔽)。vmイメージの細部をユーザーから隠蔽
- 簡易アプリケーションのネットワーク経由の新デリバリー・モデル
Virtual Appliance はソフトウェア・ベンダーにとっての自社ソフトウェアの配布・導入の新しい手段として大変重要になってきています。
特にソフトウェア・ベンチャー企業にとっては、出荷側でOSやDBなどのディペンデンシーのあるコンポーネントを十分テストして、同梱・隠蔽して配布出来る意義は大きいといえます。
多様なx86系サーバーの仮想化プラットフォーム間でのポータビリティを確保するため、DMTFではOVF(Open Virtual Machine Format)なるストア状態でのファイル、メターデータの標準化が進行しています。(実行は各仮想化プラットフォーム依存に展開される)
当初はx86系の仮想化のフォーマット標準化が狙いでしたが、IBM社のPOWERやzVMなどにも採用されるようであり、クラウド・コンピューティングの柔軟性を具現化する上で必須のものと考えられます。
- enterprise class Virtual Appliances (eVA, JEANS定義)
eVAはJEANSで導入された概念ですが、eCloud研究会ではベンダー・フリーなプライベート・クラウドでの企業アプリケーション実装の本命として育成したいと考えています。その特徴は
- SW型アプライアンスの一形態. 企業アプリケーション・コンテナーとしてのNFR要件を満たすフレームワークを付随
- OSミドルウェア、アプリケーションをカプセル化 (スタックの隠蔽)。版管理の導入により各スタックの変更に対する相互依存を軽減
- ミッションクリティカル・アプリケーションの作成・維持・実行の新モデル
- Value Add Capability (VAC, JEANS定義)
eVAの導入だけでは、OSミドルウェア、アプリケーションの相互依存性の隔離や、各プライベート・クラウドのスペックに依存するNFRなどの実装で、きめ細かな要件を満たす企業アプリケーション・コンテナーとしてのポータビリティを実現できません。JEANSではeVAとは別建てのvmイメージとしてVACを準備します。その特徴は
- クラウド・プラットフォームへのNFR強化・追加などを業務ユーザー側でVACとして準備(例えばセキュリティVAC). eVAとは別に実装
- モーバイルなどでのユビキタス対応付加機能など、準システム的なFR, NFRの業務側共用実装や ISV開発コンポーネントなど
eVA, VAC は業務系ニーズに対応して複数の組み合わせでソリューションを構成

VACは企業系ソリューション構築での必然性から定義していますが、クラウド・サービスのPaaSにあたります。
その意味でeVAは企業アプリケーション実装のSaaSと考えられます。

アプライアンス指向の特徴

 SWアプライアンスの考え方の源流は、”R-0002 ソフトウェア・アプライアンスとは” で示されているようにHWアプライアンスにあります。
アプライアンスの言葉には、現行システムが陥っている深刻なシステムの複雑さを突破するためのスローガンに似た悲願が込められています。eCloud研究会ではプライベート・クラウドの”バズワード”と対で、このアプラインスのスローガンを追求していきます。
アプライアンス指向のいくつかの特徴は
- 単純さとコンシューマ指向、迅速な導入と使い易さ、デモ導入と本番への一貫性
- コンポーネントやレイヤーの複雑さを隠蔽. (OS, MW, Apps)。チェンジ&レジリエンスの現実的な解を訴求
- 仮想化インフラ上に載せるvmイメージはSW型アプライアンス。一般に仮想アプライアンス(Virtual Appliance)と呼ばれる
- IBM Datapowerなどのアプリケーション機能特化型アクセラレータなどはHW型に分類

プライベート・クラウドの考察を進めていきますと、eVA,VACの実装がクラウド・サービスのSaaS, PaaS, DaaS(Data)に該当することが自然に理解することができます。また従来からSOAで追求されてきたサービス化を、アプライアンス指向で実装することの蓋然性が理解できます。