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R-0014 企業グローバル化対応でのプライベート・クラウドの活用
      2009年9月12日 中島丈夫 投稿
 
 攻めの海外事業を支えリードするITシステムのグローバル展開を、いつまで負担の大きいサーバーを脊負って進出するのでしょうか。これほどクラウド・コンピューティングにピッタリのテーマも無いと思われます。 一方で企業データなどのGRCの課題があります。
ということで、海外展開でのプラットフォームの選択の議論は、プライベート・クラウドの価値が一番認識されるテーマだと考えます。
            
GRC: Governance, Risk, Complianse

伝統的な、個別サーバーの海外分散配置による現地システム構築の終焉

 企業は伝統的に、事業の海外展開における多様な現地システムの構築・運用を、個々にサーバーを選択・導入し分散配置してきました。
勿論このサーバー群は同種のホモジニアスな構成ですが、現地のサイトが二桁以上にもなれば導入・運用の負担は大変なものでしょう。
迅速で柔軟なグローバル時代における海外システムの構築は、中堅・中小企業にとっては勿論の事ですが、大企業にとっても大きな課題と言えます。データセンターやオフショアのモデルが浸透するにつれ、自社による個別サーバー配置は急速に時代遅れになってきています。
オムロン社などは早くから海外展開を中国の大連や南アフリカのIBMデータセンターなどを極として活用してきています。
ネットワークの能力や信頼性が劣っていた過去に比べて、超高速なワイアレスなどを実装した現地サイトでのネットワーク系の充実は時代の流れですから、クラウド・コンピューティングによるグローバル・システムの展開は極めて自然の選択と考えられます。
特に消費者へのグローバル・リーチや、モバイルなどのローカルとグローバルを繋ぐインフラの活用は大変魅力的だと言えます。

企業データ,ビジネス・プロセスなどのガバナンスの欠如が問題.さらに信頼性などのNFRの不足が課題

 一方で、企業データやビジネス・プロセスのガバナンス、すなわちGRCを考えた場合の現行パブリック・クラウドでは解けない制限は、クラウド導入の大きな壁です。ACIDなDBのサポートや、既存企業側標準との不整合性、あるいは信頼性などのNFR不足がどうしてもパブリック・クラウド導入の足枷となります。一方でまた、ハウジングやホスティングによる現地データセンターへのオフショアなども、きめの細かい多様な現地サイトでの対応や、GRCの努力を考えると、欠点が目だってきます。オムロン社などでは現地に自社要員を配置し、物理的なセキュリティ隔離の徹底なども併用してGRCを行っているようです。現地サイトでの開発のオフショアと組み合わせれば、現地データセンターの活用は優れたITモデルだと考えられますが、カバーすべき現地サイトの数や、アプリケーションの多様化が増してくれば限界も見えてきます。
このように論考を進めてくると、プライベート・クライドの必然性が見えてきます。また、プライベート・クラウド・モデルの持つべきシステム要件も明らかになってきます。

柔軟・迅速なアプリケーションのデリバリーと変更管理が必須

 eCloud研究会、そしてそのベースとなっている日本IBMのJEANSでは、企業ITのさらなる発展を目指して、チェンジ&レジリエンスの旗のもとシステムの変更管理の革新にチャレンジしています。eCloud研究会ではその技術をザックリとクラウド技術に絞りこんでいますが、現行システムのプラットフォームの大胆な変更を迫る主張には ”ついて行けない” というのが皆さんの正直な感想です。
しかし、ここで論議している企業ITのグローバル展開を考えれば、eCloud研究会の主張は既に喫緊のテーマとなっていることが解ります。
逆にいえばこのグローバル・システムの構築を梃子にして既存システムの大化けを果たすことも現実解となると目論んでいます。
 既存の海外展開システムの更改や、これから改めてグローバル・システムの構築に着手されている企業にとっては、地に足のついたシビアな議論が必須です。結論から言うと、今見えているプライベート・クラウドのモデルだけでは不足です。50%程度しか機能充足しないと思う。
eCloud研究会では、”有るべきモデル”のフレームワークのようなものをこのサイトに少ずつ提示してきました。そしてクラウド・コンピューティングの鳥瞰図で4つの象限に区分けしています。eCloud研究会がフォーカスしているのは第2象限の企業アプリケーションの部分です。
企業システムの基盤を構成する第3象限、すなわちプライベート・クラウドのクラウド・プラットフォームの技術動向、多様なベンダーの製品動向を睨みながら、出来るだけベンダー・フリーな第2象限の抽象化かつ具象化したフレームワークを研究しています。
個々のベンダー側が準備する第3象限が50%、ユーザー中心のソリューション側の第2象限が50%の貢献度と考えています。。
そして、第3象限が仮想化を中心とした技術、第2象限がソフトウェア・アプライアンスを中心としたクラウド・サービス化の技術です。
eVA(enterprise class Virtual Appliance)とPaaS的なVAC(Value Add Capability)のフレームワークで、先ずグローバルIT化で必須となる柔軟・迅速なアプリケーションのデリバリーと変更管理のモデルをクラウド・プラットフォーム上に具現化することを目指しています。

アプリケーションの共通化と多様化の高度なバランスと統合が鍵

 小生らはクラウド・コンピューティングのモデルをSOAの延長線上にあるなどと主張するつもりは全くありません。そうではなく、SOA実現の一つの大きな壁がプラットフォームや運用系との間に存在したこと、そしてそれを解決する方法としてクラウド・サービス化を順番として通過させることがSOA化の見通しを良くするのだと主張しています。
 グローバルIT化での重要な論点として、アプリケーションの共通化と多様化の高度なバランスと統合があります。
例えば先行する東南アジアでの現地システムの成功を東欧展開に再利用して、ビジネスの俊敏さを図るなどは当たり前の事になるのでしょう。その場合に、各国の文化やレギュレーション対応で、クローン的な共通部分ときめ細かな多様化展開の高度なバランスが必須と考えられます。これはSOAの考え方では当たり前の要件ですが、それをNFRの一部でもあるアプリケーション変更の迅速さと安定化として運用系で実装するのがeVAの目的の一つです。つまりチェンジ&レジリエンスですね。そのためにダーウィン思考のきめ細かなバージョン管理を訴求していきます。またそのように実装されるNFRを smarter NFR と小生達は呼称しています。

パートナー企業間によるプライベート・クラウドの共有・共用(シェア)や、ハイブリッド・クラウドの価値

 グローバル展開でのプライベート・クラウドは、1企業の範囲で閉じることは少ないのではないかと考えています。例えば新幹線などのインフラの海外進出などの場合には、広範囲に関連する企業群のITをGRCの文脈で一気に確立するのに、企業群が共有・共用するプライベート・クラウドのITインフラが必須になるのではと想像します。金融や製造業の分野でも、あるいはサービス事業の海外進出においてでも、このようなGRCを強く充足するシェア型のプライベート・クラウドが強い味方となるのでしょう。このようにオープンに大きく構えたプライベート・クラウドが当たり前になった時、企業データセンターと何が違うのか、仮想化と何が違うのか、という疑問は雲散霧消していることでしょう。
また進出先のモバイルなどのITインフラとの接続性などを考慮すると、さらに、海外企業系のプライベート・クラウドや、パブリック・クラウドなどとのコネクティビティやインターオペラビリティが必須となり、オープンなハイブリッド・クラウド構成の努力も大変重要になると考えられます。
それをさらに強化するためには、OVF(Open Virtualization Machne Format)というメタデータを梱包したvmイメージのportabilityが大変重要になります。(OVFはx86アーキテクチャだけに閉じてはいません) eCloud研究会では、このvmイメージのポータビリティを、企業アプリケーションのアプリケーション・コンテナー,eVA、として一般化する事を提唱しています。eVAを日本が強いNFR実装でコンテナー化することにより、来るべきプライベート・クラウドの世界で、日本発IT標準が強いリーダーシップを発揮できるよう努力したいと考えています。
皆さんの参画を強く望みます。