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ITの風景
ラ・マンチャ通信
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  論考/提言/元外資系SEとしての視点
中島丈夫のITへの見果てぬ夢
ITの技術動向、業界動向などについて鳥瞰します。過去・現在・未来をさまよう見果てぬ夢を追います。
多分に主観的ですが、その分本音で書きたいと思っています。40年間SEというIT道(?)を歩んできた小生の引き出しには多彩な素材が眠っていますが、問題は適切に思い出せるかどうかです。かなりのスピードで呆けが進行していますので。。。
テーマや記述が行ったり来たり、くどくなるのをお許しください。
小生が特にお伝えしたいのが、お客様とともにシステム造りをするSEの観点から見たIT技術の論考、そして外資系の技術者として海外研究者/技術者との交流をベースにした多様な視点です。偉そうな態度に見えるかもしれませんが、あるいは取るに足らない論議だと思うかもしれませんが、日本のIT論議に一番欠けていた視点だと昔から危惧していました。



ItaniumをRISCだと強弁.原発問題と並行して進む技術モラルのメルトダウン

2011年06月13日記述


 東北大震災という未曽有の経験の傍らで、原子力村の科学者のあきれ果てた欺瞞・怠慢と、政治家稼業の人々の、これまた誠実さのかけらも見えない厚顔さを見せつけられる毎日に疲れ果て、想像力も創造力も失せていく自分の姿が虚しく悲しい。
こんな世相では、とてもブログでITの夢を描くことなど出来ませんでした。
2か月近く、何も書けなかった。
何か書き始めると、悪口ばっかりが並んでしまう。自分が卑しくなる。 今もってこのブログも結局そうです。
一方で、今期の大学の講義が(やっと)終了して、しっかりしなければという思いも少しは湧いてきています。
とにかく、老いたりとはいえ、否、老いたからこそ、云うべきことははっきりと云っておかなければなりません。

 Itaniumを巡る HPとOracleの仁義なき戦いは、全くの茶番劇としてブログの対象にもなりませんが、
一方で、省エネ法にまつわる ItaniumJEITAやIT業界の処理については、原発問題の影にすっかり隠れてしまっていますが、業界の未来を危うくする、看過することの出来ない村社会的体質を秘めています。
特に技術の良心を全くかなぐり捨てたITリーダー企業の厚顔無知さと、それで臭いものに蓋ができたとして破廉恥な解決を放置する(?)IT業界の関係者の愚行は、日本IT業界の将来を憂うに足るに十分な程、酷いものです。このまま放置すれば本当に日本IT業界はダメになってしまうのではないか。
本質を捨て置いて、ラベルを張り替えるだけで問題の解決を図ろうとする安易さは、まともではありません。

IA-64をRISCだと、自身のアーキテクチャさえ葬るITリーダー企業の驚くべき横着さ

 一番の仰天は、IntelとHPが公式サイトで、ItaniumのアーキテクチャをRISCだと云い繕っていることです。
ずるい(?)言い回しだけを見ると、議論の余地を仕込んだつもりでしょうが、本質は逃げようがありません。
(Webを見て下さい。一目瞭然です)。
Intelは、HPと共同開発したItaniumのアーキテクチャをEPIC(Explicit Parallel Instruction Computer)と命名し、RISCを圧倒する優位性をこの10年間声高く主張してきました。RISCを攻撃対象にしてきました。
HPやIntel自身も含めて、世界の学会、IT業界では、このプロセッサー種をIA-64 (Intel Architecture 64bit)と呼び、RISCとは全く別のアーキテクチャとして類別してきました。
技術的な内部構造は、思想も構成も、RISCとは殆ど正反対のアーキテクチャになっています。
それが突然、そのアーキテクチャ・オーナーのIntelとHPの日本法人が、Itanium省エネ法にまつわるJEITAのアーキテクチャ分類においては、敵方のRISCに分類するのだ、と言い出したわけです。
IntelとHPの日本法人は、至極当然のごとく、公式サイトに書き込んでいるわけです。
ItaniumそのもののためのIA-64というカテゴリーが、JEITA同じテーブルに定義されているにも拘わらずです。 全世界のIT業界で、IA-64に類別されるプロセッサーはItanium以外には存在しません。

 何故こんなバカなことをするのか。
答えは驚くほど単純で、Itanium実装のHPのサーバー群が、JEITAの省エネ法解説の定義テーブルでの本来のIA-64の類別に従うと、省エネ法解説の定義テーブルの要件を満足できず、官公庁系への販売に差し障りが出るからのようです。
東電を始めとする電力業界や通信業界という半官半民の業界で、Itaniumは大きな成功を収めています。
NECや日立では、自社開発のItaniumサーバー以上に、HP製品のOEM販売が主流を占めています。
これらのサーバーは基幹系システムで使用されているため、省エネ法がネックで購買できないとなると、Itaniumから他のアーキテクチャへの流出ビジネスと、膨大な移行作業が発生することになります。
ま、日本IT業界の得意の(?)、出来レースのように見えます。今回は外資系日本法人が参画しています。
問題は、こんなことをやっていて、グローバル対応・進出が出来るのかどうか、です。
世界の笑いものになるだけならまだしも、日本民族の人間性の信頼・品格を、根底から失うのではないか。

JEITAが作成した、”省エネ法解説 サーバー編”の、内容のいい加減さ

 これほど杜撰で破廉恥な行為は、小生の永いIT生活の中でも初めての経験ですが、何故こんなに醜いことが白日の下に堂々と行われているのでしょうか。
それは、JEITA作成の”省エネ法解説 サーバー編”のいい加減さに起因するところも大きいのでしょう。
”省エネ法解説 サーバー編”というのがどういう法律上の制約を業界に課すのか小生には不明ですが、
JEITA:Japan Electronics and Information Technology Industries Association、社団法人電子情報技術産業協会、という、れっきととした組織の発行物であり、その権威とビジネス上の制約は計り知れない程大きい筈です。
ところが内容は、小生の見る限り、驚くほど古色蒼然としたものであり、現在の技術革新とスピード感覚に基本的に対応出来ているとは思えない代物です。
穿った見方をすれば、国産メーンフレームが省エネ法ではじき出されないように、意図して作られた解説書のようにも見えます。
そこに大きな解説書のバグ(?)があって、こんなバカげた顛末になっているのでしょうか。
国産メーンフレームを救う筈の同じ解説書が、逆にビジネスの足を大きく引っ張ってしまったのか。
 
 この解説書は、公のための解説書にも関わらず冒頭で著作権を謳い、PDFコピーも禁則処理されていますので、肝心のテーブルも含めて、ここでの引用は差し控えざるをえません。
しかしインターネットの時代ですから、手に入れるのは(現在は)容易です。検索エンジンで一発です。
(この解説書と本来の省エネ法の仕様書の関係が小生には不明ですが、本質ではないので無視します)

 この解説書の一頁めに、こんな免責事項の文面が記載されています。
この文章まで著作権による引用制限が及ぶとは考えられませんし、本質論として重要なので引用します。

免責事項

本解説書は、様々な注意を払って省エネ法の解説を掲載しておりますが、その内容の完全性・正確性等については、いかなる保障を行うものではありません。
掲載情報に基づいて利用者が下した判断および起こした行動によりいかなる結果が発生した場合においても、当WGは、その責を負いませんのであらかじめご了承ください。

本解説書における掲載情報は、あくまでも掲載時点における情報であり、本解説書上の全ての掲載情報について、事前に予告することなく名称や内容等の改変を行ったり、削除することがあります。
また、本解説書上の掲載情報の改変・削除やその他一切の影響や利用者の皆様に発生する損害について、当WGは、その責を負いませんのであらかじめご了承ください。

今後、省エネ法の改正にあわせた、本解説書の改訂版の発行を、当WGでは、保障しません。また、当WGは、本解説書の修正その他のいかなる義務も負わないものとします。


日本IT業界の、軽すぎる技術に対するスタンス

 仮に、今回のItaniumRISC宣言(?)が、このJEITA作成の”省エネ法解説 サーバー編”のいい加減さに起因するところが大きいとしても、解説書の中身の更改や再解説の努力なくして、公式サイトに技術のアイデンティテイをかなぐり捨ててしまう書き込を、突然行う神経が理解できない。
本質の議論がなんら公開されないままに、表面のタグの付け替えだけで論点を闇に葬り去ってしまう、この感覚・体質はなんなのか。技術のアイデンティティに対する全くの無神経さは何処からくるのか。
同じテーブルにIA-64のアーキテクチャが宣言されているにも関わらず、ItaniumRISCに分類して平気な精神とは何か。
ここに、日本IT業界の底が抜けた技術モラル、取り返しようのないメルトダウンを見るのは小生だけでしょうか。 ここまできてしまったのか。

少し前のブログ、

2011年03月03日 IBMがメーンフレームを止めるって本当ですか?

で、日本IBMのケースを茶化して書きました。
このケースは、単なる外資系上級管理者の気まぐれのレベルで済まされるのかもしれませんが、日本IT業界リーダーたちの技術に対する杜撰さを明確に示していると、小生は受け取っています。
IBMが創り上げ、時を超えて育んできたメーンフレームという技術アイデンティテイを、説明しにくいからという理由で、日本法人が、ハイエンドサーバーの名称にタグを変えようなんて、浅はかにもほどがあります。
これをAppleやGoogleの、技術に経営の重みを置く戦略と対比すれば、本質の違いは明らかでしょう。

 最後に、小生はItaniumに対して積りに積もった因縁があります。
永らく、小生が考える日本ITの問題は、ここに顕在化していると考えてきました。
このプロセッサーに関する技術的な議論が、日本では全くなされないまま来てしまったということです。
時間があれば、過去のブログも参考にしてください。

2010年4月08日 お古の技術で潰した世界進出のチャンス. 5年以上の無駄を乗り超えられるか

2010年2月21日  同日発表されたIBM POWER7とIntel Tukwila.やっぱり黙ってはいられない. その1

2010年8月29日  x86-64bit誕生の背景に探る、技術者の戦略的な政治力とは何か -1

2010年9月16日  技術戦略成功のための2枚腰. 市場創出と競合技術淘汰の合わせ技.
             x86-64bit誕生の背景に探る、技術者の戦略的な政治力とは何か -2